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最高裁判所大法廷 昭和23年(れ)296号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人三名の辯護人加藤行吉、同工藤祐造上告趣意第二點について。

多衆一團となって他人に暴行を加えることを謀議したものが、偶々犯行現場におくれて到着したため、又はその現場にいながら、直接実行々為に加擔しなかったとしても、他の共謀者の実行々為を介して自己の犯罪敢行の意思を実現したものと認められるときは、その衆團暴行に基く傷害乃至は傷害致死の罪につき、なお共同正犯たるの責を負うべきである。さて、原審の確定した事実は、被告人等は、原審相被告人(但し千葉庄三郎を除く)が盛岡市における暴力團の排除等を標榜する髑髏團の團員として、同團員齋藤正雄が同市本町土木請負業小林組親分小林耕一郎及びその弟小林守信等から謂われない暴行を加えられたと称して憤慨している際、自らも激昂していた被告人松田は「小林組の者をぶった斬れ、責任は俺が負う」との旨、被告人橘川は「皆の命は俺が貰った、頼みたいことは松田に頼んでおけ」との旨、被告人小野寺は「相手は日本刀を持っているから一人に三人でかかれ、責任は俺が負う」との旨をそれぞれ絶叫して互に激勵し合い、ここに一同は小林組に對する徹底的膺懲の毆込みを敢行することに衆議を一決して、順次酒杯を取り交わし、同志打を避けるため各自白鉢巻をし、樽薪又は角材等を携えて、前記小林耕一郎方に押し寄せ髑髏團の名乗りをあげて怒號し、附近路上で之に應じて立ち向った小林兄弟に對し、被告人松田、橘川両名をのぞく一同は、交々所携の薪等を投げ付け、或は之を以て同人等を毆打し、或は蹴る等の暴行を加え、よって両名にそれぞれ判示の傷害を與え、その結果遂に小林守信をして死亡するに至らしめたというのである。この認定事実によれば、被告人等はいづれも指導的地位に立って、原審相被告人等と一團となって小林組膺懲のため毆込みを謀議敢行し、小林兄弟に對し傷害を加え、うち一名をその傷害により死亡に致したものと見るべきであり、唯單に他のものを唆かして右毆込みを決意敢行せしめたに過ぎないものとはいい得ないのである。從って假りに所論のように、被告人松田は暴行の現場に遅参したため、又被告人橘川はその現場にいながら、それぞれ暴行及び加害の行動には直接手を出さなかったとしても、被告人両名は本件傷害及び傷害致死罪の共同正犯たるの責を免れ得ないのである。しかも、原審の前示事実認定は、原判決擧示の證據に照らしこれを肯認するに難くないのであるから、原判決には所論のような違法はなく、論旨は畢竟事実審である原審の裁量権の範圍に屬する事実認定を非難するに歸着し採用の限りでない。(その他の判決理由は省略する。)

よって刑訴第四四六條に從い主文の通り判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介)

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